VR/MR技術を中心としたサービスを展開するアルファコードは、メタバース空間で認知症の疑似体験が可能なプラットフォームを静岡大学と共同開発。介護職・医療職向けの体験会を実施しました。
アルファコードは、VR/MRのライブ映像配信やインフラ提供、ネットワークコンテンツ関連サービスなどを手がけている企業。エンターテインメントや教育、イベントなど幅広いカテゴリーの事業をカバーしています。そんな同社が認知症という分野に目を向けた背景には、介護・医療の現場が抱える課題があります。
日本では、社会の高齢化に伴い認知症人口も増加。2025年には700万人にのぼるという推計(※)もあります。これに対し、予防とケアの充実が叫ばれていますが、認知症ケアの現場では介護者と被介護者との間に起きる“感覚のズレ”がサポートの妨げになることがあります。
認知症は心身機能障害を伴うため、健常者の視覚や聴覚、触覚などの感覚とは異なる認識をしていることがあり、例えば食事の際に認知症の方が「スープに虫が入っているから飲めない」と主張していても、実際には虫は入っていない、といったことが起こり得ます。
もちろん介護者は「虫などいない」と認識しているために困惑し、この感覚のズレが互いの不信感を生むこととなり、良質な介護を行う際の足かせになります。とはいえ、認知症の方の感覚を修正するのは困難であるため、介護者の側が歩み寄れば課題の解消に近づけるのでは、というのがこの取り組みの目的です。
※…内閣府「平成29年版高齢社会白書」より
体験会では、24名の介護職・医療職が参加。6人1チームで認知体験が行われました。用意されたのは、アルファコードのメタバースソリューション「VRider COMMS(ブイライダーコムズ)」をベースに静岡大学と共同開発したメタバース空間。参加者はVRゴーグルを装着して「色々なものが人の顔に見える」、「形や大きさを正しく認識できない」、「聞こえないはずの音が聞こえる」といった状況を、当事者の立場で疑似体験します。
体験会を終えて、参加者から寄せられた感想は「あんな風にしっかり(スープの虫が)見えていると、やっぱり食べられない」「あの方は実はこういう見え方をしているから、そういう行動をするのかも」といったもの。認知症の方に対する理解が一層深まったことがうかがえます。
近年は、介護の現場で「ユマニチュード」という言葉が使われています。これはフランスで生まれた考え方で、“人間らしさを取り戻す”という意味を持つ言葉。介護において、「見る・話す・触れる・立つ」という4つの柱と、基本となるステップに沿って、ケアする側・される側の相互理解を深めながら行動を共にしていこうと働きかけるものです。
この体験会も、まさにこの考え方と一致する試みだと言えます。講師を務めた静岡大学の石川翔吾氏は、「認知症の方の認知体験を体験することで、認知症の方を深く知ることに繋がると思います。今後の介護教育の未来が拓かれたように感じました」とコメント。テクノロジーの持つ可能性に対する期待をのぞかせています。
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