日本人の死因の第1位に悪性新生物、いわゆる癌(がん)があげられます。
医療技術の発展に伴い癌での死亡率は各部位ごとには減少していますが、その中でも唯一死亡率が上昇しているのが『乳がん』です。
乳がんは30代~50代前後の働き盛りの女性に多い癌ですが、中には10代後半~20代で乳がんを発症する場合があるため、女性が気を付けたい病気の1つです。
こちらの記事では、乳がんの原因と検査や予防方法についてお伝えしていきます。
9人に1人が乳がんの時代
乳がんとは、乳房内の母乳をつくる機能をもっている乳腺という組織にできる癌です。
主な初期症状としては、乳房のしこりです。進行してくると、乳房や乳輪の一部がただれりへこんでしまったり、乳頭から血が混ざった分泌液が現れることがあります。
乳がんの発見は、セルフチェックで胸のしこりに気がつく場合が多いですが、初期の頃は症状がでにくい病気のため、進行して初めて症状に気がつく場合もあります。
国立がん研究センターの最新がん統計によると、2020年の乳罹患がん罹患者が1年間で約9万人、乳がんで亡くなる人が約1万4,000人以上と、日本の女性の9人に1人が乳がんという割合になっています。
検査・検診をうけていても乳がんになる!?
乳がん検診というと、マンモグラフィー検査というイメージが強いのではないでしょうか。
マンモグラフィー検査は乳房専用に作られたレントゲンで、定期的にうけているから自分は大丈夫と思っている人もいるかと思いますが、そこには大きな落とし穴があります。
実は、乳がん検診をうけていたにも関わらず乳がんを発症しているケースがあるのです。
若い世代や授乳中の人は乳腺が発達している場合があったり、「デンスブレスト」の人が日本では多いため乳がんが発見されにくい場合があります。
デンスブレストとは「高濃度乳房」のことで、乳腺の割合が通常より密度が高い場合のことをいい、日本人は欧米人と比べても乳房が小さい傾向にあるため、乳腺の密度が高くなる傾向があります。
マンモグラフィー検査では乳房の脂肪部分は黒く、乳腺は白くうつりますが、高濃度乳房や若い世代・授乳中の乳房では、乳腺の密度が高いため乳房が全体的に白っぽくみえてしまいます。
その結果、乳がんや腫瘍を白くうつすマンモグラフィー検査で乳がんが見つからないケースもあるのです。
また癌の診断に、血液を採取して癌に罹患しているか検査を行う腫瘍マーカーがあります。
しかし、これらの検査は初期の癌の検出が難しく、別の病気でも検査値が異常値になる場合があるため正確性が立証されていません。
その結果、毎年検査や検診をうけていたのに『乳がんが発見された』という場合があります。
乳がんの原因って何
乳がんの原因ははっきりとはわかっていませんが、女性ホルモンが大きく関係していると言われておりエストロゲンの分泌の回数が多い場合に乳がんのリスクが高くなります。
例でいうと、出産経験のない女性や初潮がはやかった・閉経が遅い女性は、そうでない人より乳がんのリスクが高い傾向にあるようです。
その他にも、遺伝・喫煙・飲酒・食生活の乱れ・ストレスなどの要因も乳がんの発症に関係していると言われています。
再発のリスク
体の中では毎日3,000個以上のがん細胞が作られていますが、人間には免疫機能があるため、癌細胞が作られても癌が発症しません。
しかし、なんらかの原因で免疫力が低下するとがん細胞が増殖して癌が発症します。
癌で怖いのは、治療をしても再発のリスクがあることです。
乳がんでは、5~10年以上たっても再発するケースがあるため、治療後も医師による経過観察が必要です。
再発には2パターンありますが【局所再発】といって手術した乳房やその周辺で発症するケースと【遠隔転移】といってその他の臓器に転移するケースがあります。
乳がんの遠隔転移で多いのが、骨・肺・肝臓などの臓器で、進行して症状が出現して発見されることもあります。
それでは、なぜ数年が経過しているにも関わらず再発をしてしまうのでしょうか。
2014年の国立がん研究センターの研究によると、乳がんのがん細胞は骨髄中に隠れていることがわかってきました。
癌の治療が終わっても乳がんの癌情報をもった細胞が、骨髄や体の中で隠れていて数年が経過して再発するという仕組みです。
がん細胞はとても賢いので、体の中で息を潜めて生きのびるため、非常に厄介な存在なのです。
早期発見には定期検診とセルフチェック
乳がんは早期発見で8割以上が治るといわれている癌のため、年に1回は乳がん検診をうけましょう。
2015年に発表された東北大学の調査研究によると、マンモグラフィー検査と超音波検査を両方うけることで早期の乳がんの発見率が上昇することを報告しています。
そのため、検査を受ける際はマンモグラフィー検査と超音波検査を一緒に行う事をおすすめします。
また、小さい癌は検出されにくい場合があることから、普段から定期的に乳房のセルフチェックすることがおすすめです。
自分の体を一番知っているのは自分自身であるため、月に1回、月経前の胸の張りがない時にセルフチェック行うことで、小さな異常に早い段階で気がつけるようにしましょう。
乳がんへの新しいアプローチに【エクソソーム】
近年、幹細胞に含まれる『エクソソーム』を用いて、癌の予防や早期発見が実現するのではないかと言われています。
体液の中に存在しているエクソソームは、細胞から分泌されるとても小さいカプセルのようなもので、血液1ccの中に約50億~100億個のエクソソームが存在していることがわかっています。
カプセルの中にはたくさんのメッセージがはいっていて、それらの情報を細胞に伝達する役割を担っています。
それに加えて情報伝達を行いながら、細胞の修復や再生機能を行ってくれる優秀な物質です。
若くて健康な細胞から分泌されるエクソソームは良い情報をたくさんもっていて、特に臍帯からとれた幹細胞に含まれるエクソソームは、再生能力も高く注目を集めています。
そのため、エクソソームは傷や炎症のある肌の治療に使用されたり、化粧品メーカーや美容業界でもエクソソームでの肌の若返りが期待されています。
そんな美容にも健康にも良いといわれているエクソソームですが、中には悪い情報をもったエクソソームも存在します。
例をあげると、悪い情報をもっているのが、がん細胞から分泌されるエクソソームです。
がん細胞によって分泌されるエクソソームが、悪い情報を良い細胞に伝達し、がん細胞を増やしてしまう事がわかってきました。
国立がん研究センターの落谷教授らの研究で、エクソソームは脳やその他の臓器への癌転移に関与していることを発表しています。
そのため、癌の予防や早期発見には悪いエクソソームを発見したり、がん細胞から分泌されるエクソソームを除去することが有効ではないかといわれています。
また、癌の治療にもエクソソームが活用できるとされています。
エクソソームはホーミングという機能ももっています。
体の中で傷ついた細胞がいると細胞が信号をだしますが、その信号に気づいて傷ついた細胞に集まって傷を修復してくれる能力です。
エクソソームの点滴を行うと、ホーミング機能によって体の中で傷ついた細胞が修復されて再生される可能性が高い事がわかってきました。
実際にエクソソーム点滴を行って、血液検査のデータ値が改善されたというケースもあります。
これから研究が進めば、エクソソームによる新しい癌の治療法が主流になってくるかもしれません。
乳がんは予防できる・なおせる病気
乳がんへの治療は年々研究が進み、治る病気といわれています。
しかし、冒頭で説明したように日本の乳がんでの死亡率は年々増加しています。
アメリカでは乳がん検診の受診率が80%以上に対して、日本の受診率は40%弱と忙しさと健康に対する自信から受診率が低い傾向にあるようです。
乳がんは若くても病気を発症する可能性がある病気です。
正しい知識をもって、年に1回自分のために乳がん検診をうけにいきましょう。
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